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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)5585号 判決

原告

小野守

ほか一名

被告

株式会社武東工務店

主文

一、被告は原告守に対し金四五三万八〇六三円、原告輝子に対し金二〇万円および右各金員に対する昭和四二年一一月三日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

一、原告らのその余の請求を棄却する。

一、訴訟費用は全部被告の負担とする。

一、この判決の第一項は仮りに執行することができる。

一、但し、被告において原告守に対し金三五〇万円原告輝子に対し金一五万円の各担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一原告の申立

被告は

原告小野守に対し金五〇五万九七二二円、原告小野輝子に対し金二三万円、および右各金員に対する昭和四二年一一月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二原告の請求原因

一、本件事故発生

とき 昭和四一年一一月一一日午後一一時五分ごろ

ところ 大阪府枚方市磯島町一五二番地先

旧国道一号線

事故車 普通乗用車(ジープ)(大阪一そ五七七二号)

運転者 高橋国夫

受傷者 原告小野守(他)

態様 原告小野守他二名が右国道左側を南から北へむかつて歩行中、右高橋の運転する事故車が原告らを後方から次々とはねとばした。

原告小野守の受傷程度

頭部外傷三型、左骨盤骨折、膀胱損傷。

開頭手術を受けたが、現在も後記後遺症を残す。

二、責任原因事実

被告は土木建築を業とする会社であり、本件事故車を所有し運行の用に供していた。仮に被告に自動車の所有権が無かつたとしても、その車体に被告の名称を大きく横書きしていた。

一方、事故車運転者訴外高橋は、以前被告会社に雇用されていたところ、昭和四一年八月八日同社を一旦退職したものであるが、同年一一月一〇日には再び同社に雇用されており、かつ、事故当時事故車には、昭和四一年五月以降から本件事故発生後まで被告会社の従業員であつた訴外杉本康夫も同乗しており、被告会社に帰るべく運転中であつた。

又、本件事故は右高橋の酒気おび運転、前側方不注意、脇見運転の過失に起因するものである。

よつて、被告は自賠法三条、民法七一五条、民法七〇九条により原告らに生じた後記損害を賠償する義務を負う。

三、本件事故による原告らの損害

イ  入院療養費 総計 五五万〇九七〇円

昭和四一年一一月二一日から一二月二〇日分 四九万九七九〇円

同年一二月二一日より翌四二年一月二〇日分 五万一一八〇円

ロ  脳波検査料 三〇〇〇円

ハ  診断意見書代 一〇〇〇円

ニ  附添看護婦料 一〇万二一二五円

ホ  氷代 一万二三五〇円

ヘ  入院雑費 二万一〇〇七円

ト  交通費(京阪御殿山~門真間往復一二六回) 一万七六四〇円

チ  タクシー代(香里~御殿山) 七八〇円

リ  休業補償費 一ケ月五万一七五一円宛 二ケ月分 五六万九二六一円

ヌ  将来の得べかりし利益 三六八万八二一九円

就労可能年数一九年、収入一ケ月五万一七五一円、生活費一万二六一七円、労働能力の減少率六〇パーセントとして計算した。

ル  慰藉料 原告守について 五〇万円

原告輝子について 二〇万円

原告守は開頭手術後五日目にして漸く意識を回復したものの受傷後一ケ月間についての記憶はなく、一〇九日間の入院の後、一週間に一度宛通院しているが、頭痛、眼のかすみ、左下肢のしびれ感等が残つて事故前の鳶職に復帰する見込がたたない。

原告守の妻原告輝子は夫の収入の途を断たれ、五才と二才の幼児を抱えて生活保護を受けるなどして苦しい生活を送るべく余儀なくされている。

オ 原告輝子の内職休止損 三万円

一日あたり六〇〇円で五〇日分として計算

ワ  弁護士費用 一〇万円

以上を合計すると、原告守の損害は総計五五六万六三五二円、原告輝子の損害は総計二三万円となる。

四、本訴請求

原告守は右損害に対し、被告ならびに枚方労働基準監督署から合計五〇万六六三〇円の支払いを受けているので、右損害からこれを差引いた残額五〇五万九七二二円の、原告輝子は右損害二三万円の、各支払いならびに右各損害発生の後である昭和四二年一一月三日から支払いずみに至るまでの民法所定五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三被告の答弁ならびに主張

一、請求原因第一項は不知、第二項の事実中被告が事故車を所有し運行の用に供していたことは認める、第三項は不知。

二、仮に請求原因第一項、第二項第一段の事実が認められたとしても、事故車運転手高橋は、昭和四一年三月より被告会社に鳶工として雇用されていたが同年七月には退社して、事故発生当時は被告会社と何等の関係も存しなかつた者であつて、事故発生当日隔々被告会社に遊びに来て、被告会社従業員訴外加納益夫が引き続き使用するためエンジンキーを装置したまま一旦被告会社車庫に納庫しておいた事故車を、被告会社に無断で勝手に持出し、本件事故を惹起したもので、右高橋の運転は被告会社の業務とは何等の関係がなく、又自賠法三条にいう「その運行」に該当しないので、被告会社には本件事故により原告らが被つた損害を賠償すべき義務はない。

三、仮に前記主張が認められないとしても、原告守には友人二名らと共に相当程度飲酒し、酩酊状態で歩行すべきでない本件車道上を歩いていたという重大な過失があり、過失相殺を主張する。

第四証拠〔略〕

第五当裁判所の判断

一、本件事故の発生

〔証拠略〕によれば、原告主張の日時、場所において、訴外高橋の運転する事故車が歩行中の原告らをはねとばし、原告守に対し原告ら主張の通りの傷害を負わせたことが明らかである。

二、被告会社の責任について

本件事故車を被告会社が従来所有して、運行の用に供していたことは当事者間に争いがないので、他に特段の事情のないかぎり被告会社は自賠法三条にいう運行供用者として、本件事故車の運行により生じた損害を賠償する義務を負うものと言わなければならない。

しかるところ、被告は、本件事故時の事故車の運転が無断運転であるとして右責任の免脱を主張するのでこの点について判断すると、〔証拠略〕を総合すると本件ジープは被告会社従業員訴外加納益夫が事故当日午後五時頃、工場現場から運転して来て被告会社車庫の片隅にエンジンキーをつけたまま放置し、会社食堂へ食事に行つた際これを訴外高橋及び杉本らが持ち出したものであること、訴加納益夫は本件事故車を専用しているが、求めがあればこれを他人にも使用させていたものであること、右高橋は、事故発生の約三ケ月位以前に被告会社を退職しているがそれまでは同社に鳶職として雇用されており、又事故当日の直前頃には、被告会社と正式の雇用関係があつたか否かは別としても、再び同社に出入りしていたことがうかがわれる者であり、かつ事故車の同乗者訴外杉本は事故当時被告会社に雇用されてクレーン車の運転に従事していた者であること、一方右被告車の持出しも、被告会社で酒を飲んだ高橋や杉本らがさらに外で飲み直すためにこれを持出したもので、現実に事故車を運転したのは高橋であるが、杉本らもこれに同乗し結局同人らが共同して持出したもので、かつ数時間後には当然被告会社に帰つてくることが予定されていたことがそれぞれ認められるのであり(証人加納益夫の証言ならびに被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できない。)そうとすれば、仮に右高橋が被告会社に雇用されておらず、又杉本が従来は事故車の運転に従事していた者でないとしても、前示事故車持出の態様及び同人等と被告会社との関係よりして、本件事故当時被告会社の本件事故車に対する運行供用者としての一般的な運行の利益ならびに支配が完全に排斥されていたものとまではいまだ認めることができないので、結局被告は事故車の運行について、その無断運転であると否とにかかわりなく、自賠法三条の責任を免れ得ない。

三、原告らの受けた損害について

イ  入院療養費 五五万九七〇円

〔証拠略〕によつて原告主張のとおりと認める。(このうち昭和四一年一一月一一日から三〇日までの入院費用の一部二八万八三〇円は後記のごとく、被告により支払われている。)

ロ  脳波検査料 三〇〇〇円

〔証拠略〕により認める。

ハ  診断書代 一〇〇〇円

〔証拠略〕により認める。

ニ  附添看護婦料 八万六三二五円

〔証拠略〕により認める。右認容額を越える部分については証拠がない。

ホ  氷代 一万二三五〇円

〔証拠略〕により認める。

ヘ  入院雑費 二万一〇〇七円

〔証拠略〕によりこれを認める。

ト  交通費 認められない

原告の主張を証するに足る証拠はない。

チ  タクシー代 七八〇円

〔証拠略〕によりこれを認める。

リ  休業補償費 五六万九二六一円

〔証拠略〕を総合すれば、原告守の月収は少な目に見ても原告主張の五万一七五一円を越えており、かつ事故後一一ケ月間は全く就労できなかつたことが認められる。

ヌ  将来の得べかりし利益 三二〇万円

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故後右一一ケ月間を経過した時点に於て、満年令三一才であり、原告主張のごとく、この時点よりなお一九年間は優に就労でき、本件事故がなければ前記認定のごとく月々少くとも五万一七五一円の収入を得ることができたものと認められる。しかして原告は本件受傷により右稼働能力の六〇パーセントを失つた旨主張するが、原告守の職業及び後記認定のごとき同人の受傷の部位、程度、後遺症の内容等に照らし、右就労可能期間中を平均すれば、原告の稼働能力の減少率を全期間を通じ四〇パーセントと認めるのが相当である。以上の諸認定により事故後一一ケ月を経た時点より一九年後までにおける原告の稼働能力の減少による損害を本件事故発生日たる昭和四一年一一月一一日より年五分の割合による中間利息を月ごとホフマン方式で控除して算出したうえで、これを三二〇万円と認める(以上の各認定の正確度を考慮して、原告の損害額を少な目に見つもり、一万円以下の数値を切捨てた。)

ル  慰藉料 原告守 五〇万円

原告輝子 二〇万円

〔証拠略〕によれば、原告主張のとおりの事実が認められ、これによれば原告守の精神的損害に対する慰藉料は原告主張の五〇万円を下らない。

又、原告輝子についても〔証拠略〕により主張どおりの事実が認められ、かつ右のとおり夫たる原告守が頭部の傷害により開頭手術を受け、その後五日間も意識不明の状態が続きその生命に危険を感ぜざるを得なかつたものと思われその間の心労たるや非常なものがあつたと思われるので、同人に対する慰藉料として二〇万円を相当と認める。

オ 原告輝子の職休止損 認められない

右主張を認めるに足る証拠はない。

ワ  弁護士費用 一〇万円

本件事案の内容、認容すべき損害額、日本弁護士連合会および大阪弁護士会各報酬規定に照らし、原告主張のとおりこれを認める。

四、過失相殺の主張について

〔証拠略〕によれば、本件事故現場の国道は、歩車道の区別のない見通しの極めて良い道路であり、原告らは同国道左側(北に向かつて)に位置する飲食店から出て、付近に横断歩道もないところから、そのまま国道左側を北に向かつて約一〇ないし二〇メートル程進んだ時、南から進んできた事故車が原告守らを後方からはねとばした事実が認められるのであるが、一方原告らが飲酒していたことが本件事故の原因の一端をなしたと認めるに足る証拠もなく、結局、右事故車運転手の過失に較べ原告らには特に過失相殺さるべき程度の過失があつたと言うことはできない。

五、損害額

以上によれば、本件事故によつて原告守は総計五〇四万四六九三円の、原告輝子は二〇万円の各損害を被つたものと認められるところ、原告守は、右に対しすでに五〇万六六三〇円の弁済を受けた旨を自認するので、これを右各損害に充当すると、原告守については、本訴で認めうべき損害額は総計四五三万八〇六三円となる。

第六結論

被告は原告守に対し金四五三万八〇六三円、原告輝子に対し金二〇万円、および右各金員に対する右損害発生の後たる昭和四二年一一月三日から各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。

訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条仮執行および同免脱の宣言につき同法一九六条を適用する。

(裁判官 亀井左取 上野茂 小田耕治)

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